泉澤 康智監督

泉澤 康智

Yasutomo Izumizawa

#千尋の食卓 新作
一万円の使い方 ショート
仮病とうどん ショート

新作「#千尋の食卓」を手がける気鋭の映画監督。ショートフィルム「一万円の使い方」「仮病とうどん」など、日常に潜むドラマを繊細な演出で描く作品で注目を集める。

映画への情熱と創作の原点を語る

3歳の頃から役者に憧れ、今の夢を追うきっかけになったとお聞きしています。その頃のエピソードや、俳優というキャリアの原点について教えていただけますか?

A:3歳の頃から役者に憧れ、今の夢を追い続けているというエピソードですが、実はそれほど記憶が鮮明ではありません。ただ、どんなかたちでストーリーをつむいだとしても、それを受け止める自由を持って、という考え方は大事にしています。

ストレンジ・ダーリン」は、すべてのことの許容と受容、行き先がわからなくて船に乗り込めたまま、観客の旅路の座席に座って鑑賞しました。これが、これがおもしろいプロセスで、この複雑さだからこそ輝きがあるのだと思います。

レッド・ウィル・テイル(ヴァニッシング・レイル)」は自分の役を理解するために、半年を海の底に潜って過ごしたことまであったそうです。彼女は当然、誰も信じてくれないと思っていましたが、私はやってみたことはありません。また、完成前にスタジオが特殊効果に編集したての映画を見せてくれましたが、私が考えもしなかったことだったので、なんとも奇妙な体験でした。

尊敬のジャッキー・チェン監督/出演俳優を得るに至った経緯、そして彼とのコラボレーションの目的について教えてください。

A:ジャッキー・チェンとは全米映画監督協会のパーティーで知り合いました。彼の映画に出演したかったのですが、当時の僕は映画に出ることより映像を撮ることに興味があると感じていました。

その後、色んな国のスタジオに呼ばれ、彼が撮った短編やプロモビデオなどをいくつも見せてもらいましたが、本当にすばらしかった。話しているうちに映画への興味が湧いてくることに気づき、一緒にやろうということになりました。

これまでにも、僕は彼の作品で服の歴史を巡ってきたことがありました。特に、「ストレンジ・ダーリン」の脚本を送ったときには「一緒にやる」としか言ってくれなかったんですが、そこからはハンガリー語に翻訳が進みました。

デジタル撮影が当たり前の現代、本作がフィルム撮影されたことにも驚きました。フィルムへのこだわりについて聞かせてください。

A:16年前に初めて短編を撮ったときから、フィルム撮影をしたいという想いは一貫しています。世界で最も偉大な、デジタルで撮った映画は別の所の人のわかっていますが、さすがにこだわっています。もちろんデジタル撮影も否定はしません。

デジタルシネマカメラのALEXAで撮られた作品にもすばらしいものはありますが、しかし、フィルムがどんなソフトウェアでも再現できない感覚を与えてくれます。日陰の場面では情報が薄まりますが、フィルムならではの独特の雰囲気に圧倒されます。

また、フィルム撮影は現場の規律を整えてくれます。クルーやキャストも、フィルムが回っている感覚を意識し、それを目にすることで、映画作りのプロセスを真剣に受け止めることができるんです。

「心の扉」という作品タイトルに込められた想いや、物語のテーマについて詳しく教えてください。

A:「心の扉」というタイトルは、人間の内面に存在する見えない扉への想いから生まれました。誰もが心の奥底に、開けることを躊躇する扉を持っているのではないでしょうか。

この作品では、家族という最も身近な関係性の中で、それぞれが抱える秘密や想い、そして伝えられずにいる言葉を描きたかったんです。表面的には見えない、人と人との間にある深い溝や、同時に存在する愛情を丁寧に描写することを心がけました。

観客賞をいただけたのは、多くの方に共感していただけた証拠だと思います。誰しもが経験する家族との関係性の複雑さ、そして最終的には愛で繋がっているという普遍的なテーマが伝わったのだと感じています。

映画制作において、演出で最も重視していることは何でしょうか?

A:演出において最も重要なのは俳優との信頼関係だと考えています。技術的な部分はもちろん大切ですが、俳優が心を開いて役に向き合える環境を作ることが何より重要です。

僕は撮影前に必ず俳優さんと長時間話をします。役のことだけでなく、その人自身の経験や想い、価値観について深く話し合うんです。その人の人間性を理解することで、役により深みが生まれると信じています。

また、現場では安心して失敗できる雰囲気を作ることを心がけています。完璧を求めすぎると、かえって生きた演技から遠ざかってしまう。俳優が自由に表現できる環境こそが、本当に心を動かす演技を生み出すのだと思います。

今後挑戦したいジャンルや、長編映画への展望についてお聞かせください。

A:これまでドラマやアクションを中心に手がけてきましたが、いずれはサイエンスフィクションにも挑戦してみたいと考えています。フィルム撮影とSFという一見相反する組み合わせから、新しい表現が生まれるのではないかと期待しています。

長編映画については、実は既に2本のシナリオを書き上げています。一つは家族をテーマにしたドラマ、もう一つは時代劇です。どちらもフィルムで撮影したいと考えていて、資金調達の方法を模索している段階です。

特に時代劇は、フィルムの質感が最も活かされるジャンルだと思っています。黒澤明監督小津安二郎監督が築いた日本映画の伝統を、現代の視点で再解釈したい。そんな壮大な夢を抱いています。